手取りが10万円台でキツい…貧困保育士の低賃金問題は解消されるのか
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保育業界において深刻な問題の一つが保育士の給料の安さ。低賃金は保育士さんの退職理由の上位に挙げられ、保育士不足ひいては待機児童問題と密接な関係にあるのは周知のことです。
保育士の処遇改善は急務だと以前からいわれており、政府もそれに関する政策を2013年から取り組んでいます。最近の話では2019年10月からの増税による財源を保育士・幼稚園教諭への処遇改善にあてる予定です。
統計的には賃金は右肩上がりに推移してはいますが、もとの賃金が低いため数年程度の処遇改善ではまだ個人の実感には結びつかず、不十分と感じるのが現状かもしれません。
将来的に保育士の低賃金問題が解決されるのか、どうなっていくのか気になる方も多いかもしれません。今回は保育士のお給料について見ていきたいと思います。
保育士の手取りは平均20万円以下
まずは保育士さんの手取りについて見ていきましょう。
マイナビ保育士では私立保育園で働く保育士の給料(全国平均)として、
- 20代の手取り:16.6万円
- 30代の手取り:17.0万円
- 40代の手取り:19.5万円
というデータを紹介しています。
どの年代の平均手取りが20万円以下であり、勤務年数を積んでもほとんど給料が上がらないことを示しています。
保育士と他業種との比較「転職したくなる賃金格差」
平成28年賃金構造基本統計調査によれば保育士と全職種の月収換算した賃金は以下の通りです。
- 保育士:男女計27.2万円(男30.3万円、女27.1万円)
- 全職種:男女計40.8万円(男:45.8万円、女31.4万円)
全職種の月収と比較すると大きな開きがあるのが明らかです。先のデータと併せて考えれば、保育士をいつまで続けても給料が上がらないうえ、他の仕事の方が断然給料がいいという印象です。
「給料はそれほど安くない」という見方も
保育士と全職種の賃金と比べると、保育士の給料はかなり低いと感じるかもしれません。しかし世間を見渡せば月の手取り20万円に満たない仕事に就いている人もかなり多いです。
つまり、単に「給料」として見た場合、月に16万、17万円という金額は決して高くはないが極端なほど安すぎるものでもない、という見方もできるでしょう。
保育士の低賃金問題について語る立場には「単純に給料が安い」というものもあれば、「保育士という職業と給料が釣り合っていない」というものもあります。
改善すべきは給料ではなく、保育園の非効率な仕事のやり方?
現役の保育士さんや政府の取り組みは「保育士という職業と給料が釣り合っていない」から改善が必要だという立場だといえます。
そのため保育士さんのなかには、給料が釣り合ってないと感じる原因である労働自体の改善を求める意見もあります。
つまり、給料に不満があって改善してほしいといってるわけではない、保育園の非効率な運営や体制を改善して負担を減らしてほしいという声です。これを改善できれば給料がアップせずとも、職業と給料が釣り合っている状態になるというわけです。
保育士育成には他業種を意識した「給料アップ」も重要
ただ、「単純に給料が安い」という観点からも、改善を考えていく必要はあります。当然ながら現在学生でこれから保育士になろうかどうか考えている人にとっては第一に他業種と相対化した「給料」が気になるでしょう。
たとえ「子どもが好きだから」「自分のやりたい仕事だから」といっても、給料の安さが生活や将来の不安要素となれば、保育士ではなく他の職を選ぶ人も出てくるでしょう。
仕事というのはまずもって自分の生命を持続させるための手段ですから、どのような仕事であっても賃金を考慮しないで済むわけにはいきません。
給料の安さも踏まえて情熱や覚悟がなければ保育士を目指すべきではない、という意見もあるでしょうが、保育業界全体がそんなふるいをかけている余裕などどこにもないはずです。
極端な話、仮に情熱がなくても給料がいいから保育士になった人が増加したとして、その状況は今よりもまだマシ、といえるのではないでしょうか。
保育士になりたい人を増やすという観点からいえば、「保育士という職業と給料が釣り合っていない」からといって、労働自体を改善しても十分ではありません。
それはそれとして重要な問題ではあるでしょうが、保育士の低賃金問題について考えるとき、他業種と比べてもそれほど低くはないという水準まで持っていくことが急務だと思います。
なぜ給料が安い?保育士が低賃金な理由と給料の仕組み
なぜ保育士の給料は安いのか?その理由、給料の仕組みを見ていきましょう。ここでは認可保育園のお給料について説明したいと思います。
そもそもお給料というのは保育園の運営費のなかから支払われています。その運営費はどうやって作るのかといえば、公的な補助金と保護者による保育料です。
保護者による保育料についても自治体、世帯の所得、子どもの年齢などによって異なります。単純にいって保育士の給料をアップさせるためには、公的な補助金を増やすか、保護者に支払ってもらう保育料を高くするかしか方法はありません。
つまり、保育士の給料を高くしようと保育園単位で思い切った運営方針をとることは不可能です。また、補助金は税金であり、保育料は保護者の負担を大きくすることになるため、大幅に適性価格の基準を引き上げることはなかなか難しいことでしょう。
民間の会社であれば生産活動で得た利益を財源として給料が支払われます。が、保育園の場合、財政が不安定になることで子どもたちの保育まで不安定になることは望ましくありません。
保育士の給料は妥当なのか?
では、給料の金額はどうやって決められているのかといえば、その生産に必要なコストとして決められます。
一般的に、その仕事は社会にとって重要だから、などという理由で給料が高い職が存在するようなイメージがありますが、あくまでもその仕事をするのに必要なコストがどれくらいかかっているのかということが設定条件となっています。
例えば弁護士。確かに社会的に重要そうな仕事ではありますが、だから給料が良いわけではありません。その仕事を遂行するために長期間そして多額の投資がされて弁護士という職に必要な知識や技能を身につけているからです。
弁護士という仕事をするために膨大なコストが必要なため、それに応じただけの給料が支払われています。保育士という仕事を行うためにどれくらいコストがかかっているか。保育士になるためには資格の取得が必要です。
ただ、資格がないとできない仕事だからコストがかかるというわけではありません。世の中には資格を必要としない高い給料の仕事もたくさんあります。そういう仕事でも何かしらコストのかかる要素が存在しています。
例えばヘッドハンティングで高い給料をもらっている営業マンがいたとします。会社は本来、自社の従業員を長期間かけて仕事のできるように育成しますが、その分の時間と費用を省いて外から引っ張ってくるのがヘッドハンティングです。
ヘッドハンティングされた営業マンはその分だけのコストがかかる仕事ができるので、それ相当の給料が支払われます。
また労働の大変さについても、例えば保育士は肉体的にも精神的にも疲労がひどい、それなのに給料が安いといった話を聞きますが、これもコストには無関係だといえます。
その仕事をするのに必要なコストに、仕事の大変さは勘定されません。過酷な労働で低賃金な仕事というのが世の中にたくさんあるのはそのためです。このように給料の決め方、そして財源という面を総合して保育士の給料が妥当なのかどうかを考える必要があります。
ただ、保育園は営利団体ではなく社会全体と密接な関係にあるので、保育士の低賃金は当然だというだけでは済まされず、そのため政府も待遇改善に取り組んでいます。
保育士不足や待機児童の問題が生じたからこそ、ようやく保育士の賃金問題が付加的に話題にあがった感じがするのも、行政との関係によるところが大きいからでしょう。
そのため保育士の処遇をより一層改善するためには、保育士や保育関係者、子を持つ親を中心とした政治意識や社会参画の強化が今後課題となるかもしれません。