悪いのは誰?「園長夫妻のパワハラ疑惑で一斉退職届」保育現場の異常性
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静岡県浜松市にある認可保育園のメロディー保育園。職員の6割にあたる保育士ら18人が園長とその夫の副園長からパワハラなどを受けたとして一斉に退職届を出した。
その後、市による保護者説明会が開かれる。保護者約70人が参加。職員が一斉に退職すれば国の定める保育士の人数が満たせず運営停止の危惧もあったが、学習塾を運営する会社が園を引き継ぎ、保育士数を確保、今後の保育継続が可能であると報告された。
退職を申し出た18人のうち、12人が勤務継続になったという。しかし、3月末での退職の意向を示しているという。
保育園の園長夫妻のパワハラ疑惑で一斉退職届、というニュースを見て驚いた方も多いでしょう。半ば呆れた気持ちにもなりますし、どこかしら失望の含んだ違和感も覚えます。
もしこの騒動の現場が商社やラーメン店であれば周囲の反応も違うものになっていたでしょう。驚きの性質も変わってくるはずです。やはり、子どもを養護し教育する“保育“という場で起きたからこそ「いやな感じ」がするのでしょう。
例えば私などはこのニュースを見たとき、この園長夫婦が子どもたちのいるそばで職員らにパワハラを行っている場面を想像してしまいました。
事実、子どもや保護者の前で罵倒する行為があったようですが、仮にそのような目立った状況がなかったとしても、人間関係の良くない職場であるならば険悪な雰囲気が本人らの無自覚のうちににじみ出ていたことでしょう。
子どもたちが、たとえ理知的な認識がなくともそういう空気に触れて毎日を過ごしていたのだと思うと、本当に残念な気がしてなりません。
運営責任者によるパワハラという問題の一方で、保育士らによる一斉退職願いという事柄にも何かしら「いやな印象」を受けてしまいました。おそらくこれは保育士という職に対する世間的な認知のされた方から生じるものなのでしょう。
つまり、その仕事柄、我々は一個の労働という面よりも、責任ある養育者という側面を拡大して保育士という仕事を見ているため、一斉退職が原因となって園の運営が停止になる可能性があったという事実は、いくぶん乱暴な言い方ですが保育士が育児を放棄したようなものだと思えてしまうのです。
しかし、保育士も一個の職業であり労働者です。慈善活動をしているわけではありません。保育士個人にも生活があり健康があり幸福があり、それは子どもたちの人生と同じくらい貴重なものです。
今回のケースでは18人の職員たちの「労働者としての行動」と「社会的な行動」にズレを感じられるため、無責任だと非難されることもあるかもしれませんが、これからの時代どのような仕事であれ、「個人」という単位での表現がより一層強調されるかたちで良くも悪くも表出されるのではないかと思います。
その個人単位での悪しき行動の一つがパワハラです。この騒動全体を強いてまとめて言い表すと、「個人による極端な行動の連鎖」と言えそうです。
退職届を出した保育士らは事前にハラスメントの改善を要求し、改善どころか嫌がらせを受けるようになったすえの退職届ですから、単純に「極端な行動」と括ってしまうのは難しくはあります。
しかし、18人一斉の退職届という事態は、集団的な個人による極端な行動と言わざるを得ません。今後、個人の尊重とともに社会的な意識というものについても熟慮する必要があるような気がします。
園長らのパワハラ発言「つわりは病気じゃないから休むのはおかしい」
パワハラ(パワーハラスメント)については、ずいぶん前から問題化し、企業によってはパワハラ、モラハラ、セクハラなどのハラスメントについての研修も行われています。
今回の騒動があったのは私立の認可保育園で、この園はいわゆる家族経営です。園長は保育園事業を行う株式会社の代表取締役員でもあります。そういった状況を踏まえてトップによるパワハラと聞けば、常日頃からお山の大将のように振舞っていたのだろうと想像できます。
報道のインタビューでパワハラがあったか?と尋ねられて、
「こういうことになっている以上、あったということになるのかなと受け止めています。」と答えています。
保育士らによると次のようなパワハラがあったと訴えていました。
- つわりは病気じゃないから休むなといわれた
- 子供や保護者の前で罵倒される
- ミスをした保育士をADHD(注意欠如・多動症)と決めつける
- ブログ掲載のため写真映えする保育を要求される
- 保育士だけではなく保護者にも脅迫や無視といったパワハラを行っていた
この訴えを踏まえてインタビューでの発言を見ると腹立たしささえ感じることでしょう。
しかしパワハラ全般についていえることですが、当事者が全然自覚できていないケースもあるのでこの辺の事情がパワハラ問題を厄介なものにしていると言えます。
パワーハラスメントの定義とは?
厚生労働省のパワーハラスメントの定義にもあるように、職場内での優位性を背景に、業務の適性な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をパワハラといいます。
より具体的にパワハラの概念を示したものが次のものになります。
例えばこの騒動での保育士の訴えにあった「ブログ掲載のため写真映えする保育を要求される」など明らかに業務の適性な範囲を超え、業務上明らかに必要性のない行為ですし、業務の目的を大きく逸脱した行為です。
とくに保育のように子どもの成長に影響を与える業務で、こういった無茶な要求をする園長についてパワハラという観点ばかりでなく、保育園の運営者としていったい何を考えているのかと言いたくなる話です。
また、
- 「つわりは病気じゃないから休むなといわれた」
- 「子供や保護者の前で罵倒される」
- 「ミスをした保育士をADHD(注意欠如・多動症)と決めつける」
といった行為も、明らかに精神的な苦痛与えるもの、または就業環境を害するものとして、いっさい弁解の余地はありません。
正直、すぐにでも退職したくなる労働環境といえるので、こういう悪辣なパワハラの改善要求さえ行っているので、複数名の保育士の退職自体には何ら非がないように思えます。
また、本人が悪気のないケース、例えば声が大きく、怒ってないのに怒ったような荒っぽい話口調の上司がいて、その部下がいつも怒鳴られていると感じて精神的苦痛がある場合にも、パワハラ扱いになる可能性もあると聞いたことがあります。
なんでもかんでもパワハラだと決めつけるのはよくありませんが、どの職場であれ、複雑な人間関係が求められている時代です。そのため、騒動の園長はあまりに時代錯誤的な行動原理で勤務していたといえます。
何よりも、パワハラだと指摘され、改善、反省するどころか、当てつけや嫌がらせをするようになったというのですから、本当に困ったことです。
パワハラにあった保育士はどうすればいい?
園長からパワハラを受けた場合、さらに上の役職のもとに相談することはできません。今回の騒動では、直接訴えを起こしていますが、そんなことはできないと悩む保育士さんもいるでしょう。
その場合、外部の機関に相談するという方法があります。例えば
- 「労働局や労働基準監督署の労働相談コーナー」
- 「法テラス」
- 「弁護士」
などです。しかし方法や場合によってはあくまでも解決策を助言されるにとどまり、直接保育園に対して働きかけてくれるものではないことも。そうなると雇われる側は立場の弱さを強く感じてしまいます。
法的な訴えでも起こさない限り、改善してくれる気のない園長に「嫌なら辞めろ」といわれてしまえばそれまでです。そんな状況になるくらいなら、みなで辞めて園長に事の深刻さを行動で示そうという気持ちにもなりそうなものです。
保育士の場合、労働組合については
- 「介護・保育ユニオン」
- 「全国福祉労働組合」
などがあります。こういう団体に相談すれば、職場を改善するように働きかけてくれるかもしれません。
しかし「残業代が支払われない」「補助金が下りてこない」「休憩が取れない」などの“労働条件“の改善がメインであるようなので、パワハラなどへの対応についてはどうなのでしょうか。
また、どのような方法であれ、労働者が悩みを誰かに訴えるということがまだまだ常識化していないので、行動に出るのに覚悟がいり、躊躇ってしまうこともあるでしょう。今後の課題は「インスタント」な問題解決ではないかと思います。
保育士の一斉退職は無責任か?
この騒動の経緯を見たとき、一斉に退職したくなる気持ちもよく分かります。
繰り返しになりますが、保育士らがパワハラの改善要求をしたにもかかわらず、より悪化する事態となったのですから、この保育園に通う子どもたちやその親に迷惑をかけた原因は園長とその夫であり、彼らにしか責任はないと言っても間違いではないでしょう。
ただ、保育士らが一斉退職することで保育園が運営停止となるおそれがあったため、子どもたちが大人たちのトラブルに巻き込まれた感が否めません。
親や周囲の人間のなかには、保育士たちの行動はあまりに無責任ではないかという声もあるでしょう。もし保育園が運営停止になれば、慣れた環境から新しい環境へとイチから築き直さなければならなくなります。
冒頭で18人の職員たちの「労働者(個人)としての行動」と「社会的な行動」にズレを感じられるといいましたが、このバランスをとりつつ適切な対応をとっていくことも大切なのでしょう。
そのためにはまず、社会的な意識について改めて考え直すことが必要かと思います。この意識が欠けていたからこそ、園長の横暴なパワハラも起きたはずです。
保育士は子どもの成長に関わる重要な仕事なので、とくにこの社会的な意識を徹底して再認識する機会を設けることが不可欠です。
そして「労働者(個人)としての行動」と「社会的な行動」のバランスを調整できるような体制や環境を整えることが保育業界の急務の一つであるでしょう。